
声だけが、言葉のかたちではない。自分の方法で、精一杯生きる
詩を書くこと。文章で気持ちを伝えること。そして、自分の声で小さく歌うこと。
千代原礼苑さんは、自分に合った方法で人とつながり、心の中にある思いを表現しています。
幼い頃から、声を出して人と話すことが難しく、高校時代に場面緘黙症の診断を受けました。その後、広汎性発達障害についても、別に診断を受けています。
医療や福祉の支援を受けながら、家族と離れて暮らしています。日々のやり取りでは、スマートフォンや筆談を使い、自分の考えや気持ちを伝えています。
場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)
話す力はあるのに、特定の場所や相手の前では声を出して話せなくなる状態です。
例えば、家では家族と話せても、学校や職場では話せないことがあります。不安や緊張が深く関わっており、本人がわざと黙っているわけではありません。 大人になっても症状が続く場合があります。
周囲は無理に話すことを求めず、筆談やスマートフォンなど、本人が伝えやすい方法を尊重することが大切です。安心できる環境をつくり、本人のペースに合わせて支えることが助けになります。
広汎性発達障害(こうはんせい はったつしょうがい)
人とのやり取りや、興味・行動などに特性がある発達障害の診断名です。自閉症やアスペルガー症候群などを含む呼び方で、現在の診断分類では、主に自閉スペクトラム症(ASD)としてまとめられています。例えば、次のような特徴があります。ただし、現れ方は人によって異なります。
・音や光、肌触りなどに敏感なことがある。
・相手の表情や、遠回しな言葉の意味を読み取りにくい。
・会話や対人関係の築き方に難しさがある。
・手順や予定の変更が苦手で、強い不安を感じる。
交換日記から、詩の創作へ
中学時代には、特別支援学級で3年間、担任の先生などと交換日記を続けていました。文章は、千代原さんにとって身近な自己表現の手段でした。
「人と色々な話ができるのは、楽しいですし、幸せも感じられますね」
文字を通して思いを伝え、相手の言葉を受け取る。そのやり取りに、楽しさや幸せを感じていたといいます。
詩を書き始めたきっかけは、高校時代の先生の誘いだったように思うと振り返ります。コンクールに応募するために書いた詩が優良賞を受賞し、貴重な経験になりました。
その経験を心に残しながら、現在も詩を書き、公募に応募しています。エッセイを書くことも好きで、最近は、自作の詩をもとに短編小説をつくることも楽しんでいます。


気持ちを溜め込まず、自分の言葉で表す
創作を投稿するのは、誰かのためというよりも、自分の中に気持ちを溜め込まないようにするためです。自分の考えや思いを伝えたい気持ちもあるかもしれないと話します。
以前は、自作の歌詞をもとに、AIでボーカル入りの楽曲をつくっていました。しかし、利用条件の変化や、AIに頼る部分が大きく自己表現として満足できない思いから、その方法はやめました。
今はAIの利用を最小限にし、自作の詩を、自分の声で自由に小声で歌っています。
個人の創作や投稿を収入につなげることは、現在は考えていません。一方で、それとは別に、仕事として創作に関わることには関心があります。
無理なく付き合い、自分に合った方法で暮らす
場面緘黙症の当事者の中には、声で会話できるようになるために努力している方もいます。千代原さん自身は、無理に治そうとするのではなく、筆談などを使いながら、無理なく付き合っていきたいと考えています。
過去には、親しい相手との通話で少し声を出せた経験もあり、無理なく話せる相手ができたらいいなという思いもあります。
一方、支援を受ける中では、苦しい経験もありました。
「支援者から訓練の目で見られてばかりのときは、苦しかったです」
千代原さんは、サービスや道具を使って補いながら暮らしてもいいと話します。声で話せるようになることだけでなく、本人が安心して伝えられる方法を大切にしています。


支援を受けながら続ける、自分の生活
家族との関係にはつらい経験があり、現在は家族と離れて暮らしています。実家を出るときには、大きな不安や緊張がありました。それでも、助けを求める中で、支えてくれる人たちに出会ってきました。
今は、可愛いぬいぐるみたちを家族として、一緒に生活しています。
外出では、週に何回かヘルパーの支援を受け、散歩や買い物をしています。通院同行や訪問診療、週2回の訪問看護なども利用しています。福祉につながる前には、無償のボランティアに通院同行などをしてもらった時期もありました。
文字で伝える日常には、難しさもあります。雨の日に傘を差しながらスマートフォンで文字を打つときは、手が塞がって大変です。また、すぐに口頭で答えられず、相手に迷惑をかけるのではないかと焦ることもあるといいます。
文字を打つ時間を待ってもらえることが、安心してやり取りするための支えになります。
暮らしを整え、在宅で働く
生活は、生活保護を主な支えとし、障害年金2級も受給しています。また、就労継続支援B型を利用して、完全在宅で働いています。
買い物は、必要最低限の食料や日用品が中心です。ストレスなどでたくさん食べてしまい、食料を切らすこともあります。
お金の管理には成年後見制度を利用し、保佐人から生活費を本人の口座へ送金してもらっています。食料は1週間分ずつ買うなど、支援と工夫を組み合わせながら暮らしています。

就労継続支援B型(しゅうろうけいぞくしえん・ビーがた)
一般の会社などで雇用契約を結んで働くことが難しい方に、支援を受けながら働く機会を提供する福祉サービスです。仕事に必要な知識や技能を身につける支援も行います。
特徴は、事業所と雇用契約を結ばず、作業の対価として「工賃」を受け取ることです。工賃の額は事業所や作業内容などによって異なります。
保佐人(ほさにん)
成年後見制度の中で、本人の権利や財産を守るために家庭裁判所が選ぶ人です。お金や契約などの重要な判断を支えます。
例えば、借金や不動産の売買などについて同意したり、裁判所から認められた範囲で、本人に代わって手続きをしたりします。食料や日用品など、普段の買い物には保佐人の同意は必要ありません。
保佐人が担当できる範囲は、人によって異なります。

できること、得意なことにも目を向けてほしい
千代原さんは、場面緘黙症とは別に、広汎性発達障害の診断を受けています。医師の診断書を見て、自分には対人関係を築きにくい特性があることを知ったといいます。
ご自身について、衝動性が強く、いら立ちやすかったり、その場で思いをうまく伝えられなかったりすることもあると話します。
その上で、周囲に理解してほしいのは、次の思いです。
「できないことばかりではないので、できることや得意なことに目を向けてほしい」
困りごとだけでなく、文章を書くことや創作など、千代原さんが得意とすることにも目を向けてほしいという願いがあります。
形を変えれば、できることもある
千代原さんは、ほかの人にも、自分の中にあるさまざまな感情を表す手段を持ってもらいたいと考えています。
書や絵、音楽、生け花など、表現の方法はさまざまです。
「やれないと思うことがあっても、形を変えてできることもあると思います」
一人ひとりが、自分に合った方法を見つけられたらという思いがあります。創作を収入につなげたい人には、その活動を支える団体を探すのも一つの選択肢ではないかと話します。


創作の可能性を広げ、精一杯生きたい
これからは、仕事でも歌詞や楽曲づくりに取り組み、創作のスキルを磨きたい。自分の声を使った表現にも、さらに挑戦したい。
自分の存在や活動を、社会の中でもう少し知ってもらいたいという思いもあります。
「精一杯生きたいです」
必要な支援を受けながら、自分の方法で伝え、創作を続けていく。その言葉には、これからの日々への希望があります。
その人の言葉を、受け取るために
DARESHiMOGAが千代原さんのお話から考えたのは、声で話せるかどうかだけでは、その人の思いを知ることはできないということです。
スマートフォンに打ち込む文章にも、詩にも、小さく歌う声にも、千代原さん自身の言葉があります。
文字を打つ時間を待つこと。本人が使いやすい方法を受け入れること。困りごとだけでなく、得意なことや作品にも関心を向けること。
そうした関わりを、私たちも大切にしたいと思います。千代原さんが、自分のペースで表現を続け、希望する創作や仕事に出会っていけることを願っています。

掲載作品・画像:千代原礼苑さん
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