
息子への想いを、一足の靴下に。子どもたちの足元を支える
田中寛人さんは、理学療法士として働きながら、「アスノスマイル」の代表として、外反扁平足・扁平足ケアサポートソックス「たびまるアーチ」の開発・改良・販売に取り組んでいます。
ダウン症のある息子さんを育てる父親でもある田中さん。専門職としての知識と、家族として日々の暮らしに向き合う中で生まれた気づきを、ものづくりにつなげています。
子どもたちの足を、もっと日常の中で支えたい。その想いから始まった挑戦は、靴下メーカーとの共同開発へ、そして多くの人の応援を受けて、必要な家庭へ商品を届ける活動へと広がっています。
父親として、理学療法士として気づいたこと
田中さんは現在、正社員の理学療法士として老人保健施設に勤務し、ご入所者のリハビリテーションを担当しています。「立つ」「歩く」といった、生活の土台となる動きを支える仕事です。
家庭では、2022年3月3日に生まれた、ダウン症のある息子さんを育てています。息子さんは、ダウン症候群の中でも「転座型(21トリソミー・ロバートソン型転座)」と呼ばれるタイプです。
「たびまるアーチ」の開発のきっかけは、息子さんの外反扁平足に向き合ったことでした。装具やインソールを試しても、嫌がって外してしまったり、靴を履きたがらなかったりすることがあったといいます。
もっと子どもの生活に取り入れやすい方法はないだろうか。そこで目を向けたのが、毎日履く「靴下」でした。
靴下に足元を支える機能を持たせることができれば、装具やインソールではカバーしにくい時間にも使えるかもしれない。しかし、思い描くような子ども向けの商品は見つからず、自分たちでつくることを決めました。
また、田中さんは、ダウン症のある子どもの家族との交流の中でも、足のケアについての悩みを耳にしてきました。
どこに相談すればよいのかわからない。相談できる医療機関が遠く、継続して通うことが難しい。必要性を感じていても、日常のケアにつなげにくい状況があるといいます。
だからこそ、家庭の暮らしの中で取り入れやすく、続けやすい支援の選択肢を増やしたい。その問題意識が、開発を進める力になりました。

① 21トリソミーとは
通常、21番染色体は2本あります。その染色体の情報が3本分ある状態を「21トリソミー」といい、ダウン症候群の原因になります。
② ロバートソン型転座とは
染色体の長い部分どうしが、くっついた状態のことです。21番染色体が関係し、結果として21番染色体の情報が3本分になると、転座型ダウン症候群になります。余分な情報が別の染色体にくっついているため、染色体の総数が46本でもダウン症候群になることがあります。
③ 「転座がある=ダウン症」とは限りません
染色体の配置が変わっていても、必要な情報の量に過不足がない「均衡型転座」の場合は、通常、ダウン症候群の特徴は現れません。また、転座型ダウン症候群には、新たに転座が生じる場合と、親の均衡型転座に由来する場合があります。個別の違いは染色体検査で確認します。

多くの協力と試行錯誤から生まれた一足
想いを形にするまでには、いくつもの壁がありました。
田中さんは、国内の靴下メーカー30社以上に共同開発を相談しました。しかし、子ども用の小さな靴下に必要な機能を持たせることは難しく、設備や開発実績などの面から、なかなか協力先が見つかりませんでした。
その中で、実現への道を一緒に探ってくれたのが、奈良県の老舗靴下メーカー、西垣靴下株式会社(エコノレッグ)です。
田中さんの理学療法士としての知識・経験と、西垣靴下が培ってきた編み技術を組み合わせた共同開発が、ここから始まりました。
開発では、市販の靴下にテーピングを施し、息子さんの足で、支える位置や方向を検証。その考えを靴下へと落とし込み、試着と改良を繰り返しました。
さらに、200名を超えるモニター応募の中から100名に協力してもらい、実際に子どもたちに履いてもらいながら検証を重ねました。
田中さんは、試作のために製造機械を止め、細かな仕様調整や打ち合わせに何度も対応してくれた西垣靴下に、深い感謝を寄せています。
専門職の知識、メーカーの技術、そして使う子どもたちやご家族の協力。その積み重ねによって、「たびまるアーチ」は商品として形になりました。
動きに寄り添い、日常の中で足を支える
「たびまるアーチ」が目指しているのは、装具やインソールによる支援が届きにくい日常の場面を補うことです。
田中さんが開発で大切にしているのは、歩く、立つ、しゃがむといった動きの中で足を支える「動的な支持性」という考え方です。
足首の内側から土踏まずにかけて伸びにくい繊維を連続して配置し、繊維の伸び縮みと、動作に伴って生まれる張力を利用して足元を支える設計になっています。
足の動きを過度に制限せず、土踏まずや足首を支える筋肉や感覚が働きやすい環境をつくりたい。そして、日常の動きの積み重ねを、足の育ちを支える「足育」につなげたいと考えています。
ダウン症のある子どもをはじめ、扁平足や足の発達が気になる子どものために開発された靴下です。
装具やインソールと、生活の場面に応じて使い分けたり、併用したりできるものを。毎日身につける身近なものを通じて、続けやすいケアの選択肢を届けようとしています。
(写真はフジテレビ「イット!」内「アスヨク!」で紹介されました。)


応援を力に商品化へ。そして、新たなスタートへ
試作とモニター検証を経て挑戦したのが、クラウドファンディングによる先行販売でした。
何度も試作を繰り返し、うまくいかない場面にも向き合ってきた田中さん。商品として皆さまへ届けられるようになったことに、喜びとともに、支えてくれた方々への感謝を感じています。
さらに、「たびまるアーチ」は、キッズデザイン協議会のキッズデザイン賞の「安全・安心向上部門」を受賞しました。
試作や検証、改良を重ねてきた取り組みが、子どもたちの安全・安心という視点から評価されたことを喜ぶ田中さん。こうした評価を、必要としている家庭へ商品の存在を届けるきっかけにもしたいと考えています。
販売開始後も、商品の改良は続きます。より多くの方に履いてもらうための新たな仕様やカラーバリエーション、さらに別の高機能靴下の企画・開発にも目を向けています。
田中さんにとって、販売開始も受賞も、次の取り組みにつながる節目です。
子どもたちの未来と、理解の輪を広げるために
田中さんが見つめているのは、幼児期の足のケアだけではありません。その先に続く、一人ひとりの暮らしです。
子どものうちから将来を見据えて使えるものや、日常生活の困りごとを支えるものを届けたい。「たびまるアーチ」を出発点に、ダウン症のある方の暮らしを支える商品づくりを進めていきたいと考えています。
また、メディアでの紹介やクラウドファンディングを通じた反響は、商品の応援につながるとともに、ダウン症への興味や関心を持ってもらうきっかけにもなったと受け止めています。
一足の靴下を知ることから、その背景にある暮らしや困りごとを知る。その気づきが、理解や支援の輪へと広がっていくことを願っています。
公式サイト(アスノスマイル)では、足や歩き方、姿勢、日々の暮らしで気になることに、父親・理学療法士の視点から答える「ダウン症Q&A」も公開しています。
平日は理学療法士として働き、休日は家族と公園や買い物へ出かける田中さん。最近の楽しみは、通勤時間にオーディブルで小説の朗読を聴くことです。
家族との日常を大切にしながら、暮らしの中の気づきを、必要なものづくりへとつなげています。


DARESHiMOGAも、田中さんの挑戦を応援します
息子さんの足元に向き合うことから始まった、田中さんのものづくり。日々の暮らしで感じた困りごとを、専門的な知識と多くの人の協力によって、一足の靴下へと形にしてきました。
「ないなら、つくればいい」。その想いを行動に移し、必要としている方へ届けようとする姿勢に、私たちも共感しています。
このたびのグッドデザイン賞受賞、そして「グッドデザイン・ベスト100」選出を、心よりお祝い申し上げます。
子どもたちが自分らしく一歩を踏み出せる未来へ。DARESHiMOGAも、「たびまるアーチ」と、田中さんのこれからの挑戦を応援していきます。



